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取材レポート

奈良市が不登校保護者向けイベント 全国から有識者集う

2024年01月22日

(取材・文:学びリンク 小林建太)

 

多様な進路と学びを語る会

 

 

不登校保護者を対象としたイベントが12月17日(日)、奈良市内で行われた。会場とオンラインでのハイブリッド開催で、市内外から約100名の保護者が参加した。経済産業省による特別講演のほか、全国の有識者によるパネルディスカッション、各分野の専門家を交えた保護者座談会などが行われた。

 

 

「幕の内型からビュッフェ型へ」経済産業省 特別講演

 

開催されたのは「多様な進路と学びを語る会」。奈良市教育委員会が主催した。

 

第1部冒頭では経済産業省教育産業室長の五十棲浩二さんが「多様な学び」をテーマにオンラインで特別講演を実施。五十棲さんは、経済産業省が進めるこれからの教育の在り方について、「従来のような全員に同じものを与えようとする『幕の内弁当型』の教育から、一つひとつ自分にとって良いものを選び取っていく『ビュッフェ型』の教育へと変換させたい」と説明。そうした中で、昨年9月に実施された産業構造審議会・教育イノベーション小委員会で議論された主な論点を整理して解説した。

 

一方、「不登校や子どもたちの課題に対する行政の対応の遅さは重々承知している。なんとか学びの多様化を実現させようと、経済産業省、文部科学省、子ども家庭庁が力を合わせて、現場の方々とも力を合わせて取り組んでいる」と行政が抱える課題についても状況を伝えた。

 

 

行政と学校、家庭の連携が不可欠

全国の実践者が保護者へメッセージ

 

第1部後半では、有識者によるパネルディスカッションが行われ、元小樽市立朝里中学校校長で北海道公立学校初任段階教員指導者の森万喜子さん、元横浜市立鴨居中学校校長で一般社団法人とえはたえ代表の齋藤浩司さん、神戸山手女子中学校高等学校校長で関西国際大学客員教授の平井正朗さん、元枚方市立山田中学校校長の山本俊夫さんがそれぞれ登壇。自身が実践した不登校支援の事例報告のほか、子どもたちとの関わり方などについて講じた。

 

元小樽市立朝里中学校校長で北海道公立学校初任段階教員指導者の森万喜子さん

 

元横浜市立鴨居中学校校長で一般社団法人とえはたえ代表の齋藤浩司さん

 

最初に事例報告を行った森万喜子さんは、現在の不登校の捉え方について、飲食店と学校の違いを例に挙げ、「健康な人が飲食店で体調を崩したらお店側の責任を疑うが、元気な子どもが学校で元気をなくすと子どもに問題があると思われてしまう。学びは苦しくて我慢しなければいけないものではない。大人は子どもたちに『いまは辛抱するとき』と言ってはいけない」と聴講者に訴えかけた。

 

齋藤浩司さんは、自身の校長時代の実践を振り返り、「民間、地域、協力者とのネットワーキングをもとに、子どもたちを総ぐるみで見ていった」と支援の全体像を伝えた。一方で、「家庭への支援が不可欠だと思っているが、そこへ情報が届かない。学校や行政から情報を発信しても、家庭とのつなぎ目がなく、保護者は不安で仕方ないし、反対に学校や行政に対して家庭からのレスポンスがない」と、学校や行政と家庭との連携不足を課題に挙げた。

 

平井正朗さんは、自校で実践する個別最適化学習について触れながら、「個別最適化やICT教材はツールに過ぎず、大事なのは学習計画。ただ、当然、計画通りにいかないこともある中で、いかに子どもたちが自己調整しながら学習していけるかが大事になる。学びは生徒たちが選ぶもの。教員の役割は指導ではなく、生徒たちをコーチングし、伴奏しながら寄り添っていくことだ」と、学校経営の視点から学びの在り方を伝えた。

 

山本俊夫さんは、前任校で掲げた「愛のある学校づくり」の実践について報告し、「誰もが言える教育目標」「同調圧力への抵抗」「指導から支援へ」「生徒が主語の学校」を基本とした様々な取組みについて報告。校長退職時に気づかされたこととして、「よく大人が子どもに愛情をそそぐと言うが、それは子どもが大人に愛を発してくれたからこそ、結果的に大人が子どもたちに愛をそそいでいるのでは」と、校長経験の中で得た子どもたちとの関わり方について話した。

 

神戸山手女子中学校高等学校校長で関西国際大学客員教授の平井正朗さん

 

元枚方市立山田中学校校長の山本俊夫さん

 

事例報告後は、各パネラーが聴講者からの質問に答えた。「子どもに対する家庭の役割は?」との質問に、森さんは「子どもは自分の胸の内をすぐには言い出さない。安心して胸の内をさらせるように、腫れ物にさわるのではなく、家族の一員であることを常に言えることが大事」だと伝えた。

 

「情報が学校にも家庭にも行きわたるようになるには?」との質問に対し、齋藤さんは「不登校に限らず、福祉と学校、公の連携は課題だらけ」と現実を伝えたうえで、「いま不登校の保護者のコミュニティは様々なかたちで広がっている。まずはそういったところとつながることからスタートしてほしい」とアドバイスした。

 

 

「多様な進路」「多様な学び」をテーマに保護者同士が座談会

 

 

第2部では、会場限定で不登校の保護者座談会が開かれた。「多様な進路」「多様な学び」の2つのテーマで会場を分け、1グループ7名程度で約30分程度の時間が設けられた。なお、いずれのテーマにも参加できるよう、前半後半で会場を入れ替わる形式で実施された。それぞれのグループには、ファシリテーターとして、第1部のパネラー4名のほか、奈良市のフリースクール「奈良YMCA」、天理市の通信制高校「飛鳥未来高校」、学びリンク株式会社編集長の小林建太が加わり、専門的な視点も入れつつ幅広い話が繰り広げられた。

 

奈良市によると、市内の小中学生のうち不登校児童生徒数は2022年度に839名としている。同市は独自の不登校支援事業として、教育支援センターの運営のほか、公設フリースクール、オンライン学習支援を実施。また、保護者支援の一環として、子どもが不登校傾向にある保護者が集まり交流する「はぐくみのつどい」を年4回、定期的に開催。今年8月と11月には「はぐくみ進路のつどい」として、地域の様々な学び場や進路先を集めた進路相談会も実施し、各回100名近い参加者があった。

 

挨拶をした奈良市教育支援・相談課の中口岳課長

 

この日行われた「多様な進路と学びを語る会」は、「はぐくみのつどい特別編」として開催され、市外からの参加も可能とした。担当した教育支援・相談課の中口岳課長は、「不登校傾向のお子さんがいる保護者の方に限らず、より多くのみなさんに不登校の現状や多様な学びについて考えていただきたいと思いました。子どもたちにはそれぞれに合った学び方があること、また、子どもが社会から孤立化してしまうのではないかと不安を感じている保護者の思いにも同時に触れて頂ける貴重な機会となると考えています」と、イベント開催の趣旨を説明した。

 

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