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取材レポート

【持続可能な学び場づくり】報道記者が立ち上げた「自分にしかできない支援のあり方」

2024年01月19日

クラウドファンディングでフリースクール支援

 

 

西日本新聞社 報道センター社会部

専任職・編集委員(教育)

記者 四宮淳平さん

 

西日本新聞社(福岡県福岡市)は、不登校の子どもたちの学びの選択肢やフリースクールの拡充を目指し、地元NPOや財団と連携したプロジェクトを実施している。2022年11月から23年1月には認定NPO法人エデュケーションエーキューブ(福岡市)との共同で、継続寄付によるクラウドファンディング(CF)を実施。目標の150名を大幅に上回る169名の寄付を実現した。また、2023年12月からは一般財団法人ちくご川コミュニティ財団(久留米市)との共同で、フリースクール利用費の補助を目的とした基金設立のためのCFを開始し、現在、1月31日まで募集している。西日本新聞は報道を通して不登校の子どもたちやフリースクールの実態を伝える。プロジェクトを立ち上げた四宮淳平記者は教育担当編集委員として、長年、地域の支援者や当事者たちを取材。学校外の学び場が少ない現状に対し、フリースクールの経営上の課題に直面した。報道する側が具体的な支援に行動を移した経緯について、四宮さんにお話を聞いた。

(取材・文:学びリンク 小林建太)

 

 

支援者への転身も考えた

報道することが「自分にしかできないこと」

 

 教育分野を長く取材してきましたが、様々な課題がある中でも、特に公教育の枠組みから外れてしまう子どもたちの存在、その子どもたちが学校以外で学べる場がないという状況が一番深刻な問題だと思っていました。

 私自身でも報道以外に何かできることはないかと考えたときに、事業構想大学院大学に入学して、いろんな支援のあり方を探っていきました。一度は報道を離れて自分自身が教育者となり支援することも考えたのですが、それには一から研鑽を積んでいかなければならないし、一人前になるまでには10年はかかる。そこから始めても、最初に支援できる子はごく少数に限られますので、あまり現実的ではないと思ったんです。

 一方で、私は教育担当編集委員という立場で、西日本新聞の中では唯一、教育分野専門で取材できるポジションにありました。社内でそういう立場にいながら、それを投げうってまで教育者になるよりも、やはり自分にしかできない報道という方法で支援をしていこうと考えたのです。

 それまでもフリースクール関係者や利用者の取材をしてきましたが、経営上の課題に注目したのは、事業構想大学院大学で支援のあり方を突き詰めていったからです。そのときに、いかにして子どもたちの学校外の学び場を広げていくかを考えていく中で、今回のプロジェクトへとつながっていきました。

 西日本新聞としては、学びの選択肢としてフリースクールを増やしていきたい。ただ、現実として、多くのフリースクールは一拠点を運営するだけでも精いっぱいで、それ以上に展開していこうと考える団体が少ないんです。ただ、それまでの取材で、草場勇一さんが代表を務める認定NPO法人エデュケーションエーキューブは、プラットフォーム事業としてフリースクール100校という目標を掲げており、すでに3拠点を運営していました。そこで、最初にCFを一緒にやるなら草場さんの団体とやる意義が大きいと思いお話を持ち掛けました。

 このCFでは固定費を賄うための継続寄付という形式をとりましたが、2か月間で目標の150名を上回る169名の寄付がありました。私たちが利用した「READYFOR」のCFで、同じ継続寄付形式で集まった人数はこれまで130名程度と聞いていましたが、それを大幅に上回る結果となりました。寄付者の属性は様々でしたが、何らかの形で草場さんや私、記事中に登場する人を知っていて、報道によって寄付に動いた方がいるなど、やはり報道の影響は大きかったと思います。

 

 

九州で初めてフリースクール利用者への給付型奨学金事業

 

 エデュケーションエーキューブとのプロジェクトは昨年1月で一区切りとなりました。私たちとしては、より広域的な形での支援を考えていました。そんなとき、幸いなことに、私が関わっていたフリースクール関係の研究会で、一般財団法人ちくご川コミュニティ財団がフリースクール利用者の経済的支援のための基金を立ち上げるという話が出てきました。ここでご一緒できれば、自分の思いがまた一つ実現できると思い、財団側にCFへの協力を提案しました。

 CFは現在も募集中で1月31日までが締め切りとなっています。今回は300万円という目標金額ですが、これは1年間に5人の子どもを支援できる想定になっています。対象地域は筑後川関係地域としていますが、福岡県全域も入ります。不登校の子どもの数と比べれば少ない数ですが、まずは一歩を踏み出すことが大切だと思っています。

 本来は公的に支援されるものだとは思っています。しかし、フリースクールなどの利用料を負担する自治体は全国でもわずかです。私たちとしては、まずはこのプロジェクトで5人を支援して、検証した結果を行政にもっていきたいと考えています。実践の中で出てきた課題や事例を検証していくことで、家計支援に対する議論につなげていければと思っています。

 不登校支援を目的としたCFは、ほかにもたくさん存在します。こうした支援について、「フリースクールって何をしているところなの?」「なぜフリースクールに行かなければいけないの?」という問い合わせは支援者側にあるようです。現実として、フリースクールの利用費補助をすることに違和感がある人は少なくないのかもしれません。

 この支援の役割は経済的な負担を抱えている不登校の子どもたちの学びの選択肢を増やしていくことにありますが、そこが理解されない背景には「不登校の子どもたちがいる家庭がどういう状況なのか」「その子たちが通うフリースクールがどんな役割をはたしているのか」という実態が知られていないことも大きいと思います。

 そこを伝えるために、西日本新聞が同時進行で報道していく必要があり、不登校の子どもたちが増加する中で、行き場がない、行きたいと思っても利用できない家庭があるという実態を多くの人に知ってもらえればと思っています。

 

 

 

不登校の当事者となり

取材や記事に変化が

 

 実は私自身も3人の子どものうち2人が不登校です。明確なきっかけはなかったのですが、様々な要因で学校を避けたいという思いが生まれている中で、コロナ禍の一斉休校などを機に学校に行かなくなったのです。

 取材をする中で、「親が忙しくて子どもの世話をちゃんとできていない」と、不登校の要因を説明されたことが何度かありました。ただ、私の場合は子どもが3人いて、1人は不登校になっていない。もしその考えが当てはまるのであれば、我が家はみんな不登校になっていなければいけません。不登校の要因は本当に様々で、「親の忙しさ」などとひとくくりにできないことは、自分の体験からも思うところです。

 自分の子どもが不登校になったことで、私自身も当事者でないと味わえないような感情を多く抱きました。この経験があることにより、問題を深く理解でき、当事者と同じ目線で取材したり報道したりすることができるようになりました。

 特に取材をする中で、当事者の親が話す痛みなどがわかるようなりました。また、私自身の経験を話すことで、相手も安心して話されることも増え、これまでとは違う話が引き出せ、それが記事に反映されることも増えました。

 不登校関係の取材は、自分の子が学校に行かなくなる前にも取材してきたものの、いざ自分の子どもが不登校になった当初は、「なぜ、行かないのか」と思いました。いちばんつらかったのは、子どもが学校に行かないことで、今後どうすべきかを妻と議論をしなければいけなかったことです。このやりとりがつらくて、心のどこかで「学校に行ってくれ」と思ってしまう自分がいました。

 三男は小3で不登校になったのですが、初めて小3の子を家に一人でいさせたときのことをすごく覚えています。仕事で夫婦二人とも外出しなければならなかったとき、帰宅すると、子どもが自分の周りにぬいぐるみを並べて畳の上で寝ていたんです。一人で何もやることがなくて、ぬいぐるみを並べて遊び、そのまま寝てしまったのでしょう。本来は、信頼できる大人や友達と学んでいるはずの時間帯に、1人寂しく自宅にいた様子が目に浮かび、ものすごい怒りや絶望を感じ、いろんな感情が沸き起こったのです。

 自分は何をするべきか、何ができるのかと考えても、すぐに答えは出ません。無理やり学校に行かせるよりも、自宅で過ごす方がいいと心から思えるようになるには、時間がかかりましたね。

 

 

 

わざわざ無用な負担や傷を

子どもに負わせる必要があるのか

 

 最終的には、義務教育段階で、フリースクールが一条校と同じような選択肢にまでなってくれることを望んでいます。というのも、不登校支援という枠組みでフリースクールをとらえると、それは「不登校である」ことが一つの条件になってしまいます。でも、不登校になるまでの過程で、子どもたちは傷つき、親自身も悩み苦労する。そうした経験を経た子どもの多くは、その過程で自信を失い、何か新しいことをやるにも、行動を起こす気持ちになれません。わざわざ不登校という経験をさせて、子どもの自信を奪ったり、傷つけたりする前に、最初から別の場所を選べる状態にあることが、あるべき姿だと思います。

 現場レベルでの視点で言うと、どんな居場所でも、その子自身が充実した学びを得られているのであれば、それで良いと思っています。学校に行くのが当然という中で、無用な負担や傷を負う経験をさせている現実があるのですから、あえて学校という場所にこだわる必要はないと思っています。

 ただ、最新の文部科学省調査でも、フリースクールなど民間教育施設を利用している子どもの割合は4%程度しかいません。

 これは、私自身が不登校の子どもの親として味わったことですが、「子どもが学校に行ってくれるかもしれない」と感じているときに、親はそうした場を子どもに提案しにくいんです。フリースクールに行ったら余計に学校に行かなくなるかもしれないという不安もあり、利用したら学校ではかからないはずのお金も発生する。ここを親が割り切れるようになるまでは、なかなかフリースクールが選択になっていかない。そうした心理も4%という数字には表れていると思います。

 この不安を解消するためにも、フリースクールが低額で利用できる、さらにそこが近い場所にある、という状況を作り出す必要があると思っています。そうなれば親としても提案しやすくなるし、子どもをより応援できるようになる。そのためにも、こうした経済的支援や基金の創設はとても重要だと感じています。

 

 

フリースクール等利用者への給付型奨学金事業

「子どもの多様な学びの場を保障するための基金」クラウドファンディング

一般財団法人ちくご川コミュニティ財団・西日本新聞社

 

■クラウドファンディングについて

実施期間:2024年1月31日(水)まで

目標金額:300万円

▼クラウドファンディングページURL

https://congrant.com/project/chikugogawa/8745

 

 

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