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取材レポート
発達障害、不登校の専門レッスンを開講するお料理教室 「食」を通した子どもと親の “リアル” な喜び
2022年10月26日
お料理教室「lago」
代表 中川千佳子さん
滋賀県大津市にあるお料理教室「lago」では、2021年から不登校児、発達障害児専用のクラスを開講している。2012年の開設当時より、子ども向けレッスンに発達障害やグレーゾーンの子どもたちが数多く通って来ていたことから、保護者の要望を受けクラス開講に至った。料理を通して、子どもたちは食の喜びを感じるだけでなく、社会との関りや自立の機会を得ている。一方で代表の中川千佳子さんは「困窮するお母さん方を救っていきたい」と話す。フリースクールでも支援機関でもない「お料理教室」というバランスが、子どもにも保護者にも居心地の良い空間を作り出しているようだ。
万人が楽しめる「食」に高い平等性
自ら療育を学び、専用クラスを開講
lagoを始めて1 1年目になりますが、当初から子ども向け教室には発達障害やグレーゾーンの子どもたちが数多く通ってきていました。お料理は、気分にむらがあったり、集団行動が苦手でも、一人で黙々と作業ができるため、習い事として選ばれやすかったのだと思います。
そんな中、子どもを連れて来られるお母さん方は非常に困窮していました。明らかに精神的に不安定で、様々な思いをされてここまでたどり着いている。子どもに特性があると、習い事をさせたくても受け入れてもらず、結果的に子どもが望まない習い事をさせてしまうことが多いんです。ところが、「食べる」という行為は万人が楽しめて、誰にでも同じだけの喜びがあり、実はとても平等性の高いものだったんですね。
そこで、私は料理を通して、もっとお母さん方を救ってあげたいと思うようになりました。ただ、私には不登校や特性のある子どもたちを専門的に見る知識がありません。ですから、当初はそこを大きくアピールすることはしなかったんです。
まず、私は大津の企業が行う放課後等デイサービスで、約2年間、個別指導を経験させて頂き、子どもたちの発達特性や対応などを勉強しました。理解が深まっていくと、特性のある子に対しては先に見通しをつけてあげるなど、レッスンでも工夫や配慮ができるようになっていったんです。そして、ある程度自信がついてきたところで、お母さん方からのご要望も強くなり、2021年に不登校児や発達障害児のクラスを開講することにしました。
フリースクールとは違う独特の空間
お料理を目的に集まった「遠くの不登校同士」
また、コロナ禍で、より一歩を踏み出せない子どもたちが増えていました。私がいくら「受け入れるよ」と言っても、来てもらわないことには関われない。そんな難しさを感じていたところ、お母さん方から「オンラインでやってほしい」という依頼を受けたんです。最初は一度も会ったことのない京都の子でしたが、試しにお互いのキッチンを映し合ってレッスンしてみたら、意外と上手くいった。そこで、オンラインでもレッスンを始めてみることにしたんです。
特性のある子は細目に見る必要があるため今は実施していませんが、不登校のクラスに限って平日の週 2回行っています。起立性調節障害の子などもいますので、遅く起きて食材を買い出しに行ける時間などを考慮して、開始時間を14時に設定しています。
今はコロナ禍なので、教室に来る子は1回4名まで、オンラインは6名までで行っています。オンラインと教室をつないで一緒にレッスンする時もありますね。
お料理が目的なので、無理に交流する必要もなく、みんなで楽しくやってもいいし、黙々と取り組むのも両方許されるのが特徴だと思います。レッスンは一緒に進んでいきますが、教えること自体は個別対応なので、子どもたちにとってもプレッシャーがありません。
でも、子どもたちを見ていると、「遠くの不登校生同士」という関係性で話せるのが良いのか、意外と話が弾む。誰かが「僕は先生が大嫌いなんだ」と言って、ほかの子が「私も」と続く。そういうのを見ると本当に面白いですね。
私から不登校の話題は降らないようにしているのですが、子どもたちからすると普段、身近な人には言えないことを言い合えるようで、自然と「だよね、だよね」と共感が生まれています。ここはフリースクールではないし、何か支援を求めてくる場所でもない。そうした環境が子どもたちによっては、ちょうど良かったのかもしれません。
オンラインについては、レッスン前に一度、保護者と本人と簡単な面談をさせてもらっています。子どものほうは緊張感を取ってもらうのが目的ですが、お母さんに関しては、個々の心配点を確認させてもらう必要があるからです。
私としては全部自分でできるようになってほしい。でも、保護者の不安も取り除いてあげたいという思いもあります。「何してもいいです よ」という方もいれば「やっぱり口を出してしまうかもしれません」という方もいて、包丁や火なども、どこまで扱っていいのか、ご家庭のキッチンがIHかどうかなど、細かいところを確認し合います。
ただ、終わってみると、ほとんどの保護者が驚かれますね。私はあえて大人向けのレシピで挑戦させますから、食卓に子どもたちが作ったチンジャオロースやエビシュウマイなどが振る舞われるわけです。すると、夕食後に驚いた保護者から感想のLINEがたくさん入るんですよ。
そこからお料理が好きになって、レッスン外で自ら料理を始める子も出てきます。あまりにうれしすぎて、自分が調理している写真を部屋中に貼ったという子もいましたね。そうなってもらえることが私にとっても一番のやりがいですし、本当にうれしくなりますね。