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取材レポート

全日制高校が運営するフリースクール【福岡・立花高校】(2) 新たな「コンフォートゾーン」として

2022年10月24日

立花高校

学校長 齋藤眞人さん

 

長年、福岡で様々な取組を積極的に行ってきた立花高校が、今回「フリースクール」開所に至った。開所により、地域に新たな「選択肢」が増えた結果となる。開所の経緯について齋藤眞人校長に話を聞いた。

 

 

高校教育の補完ではなく

止まり木となる居場所に

 

 私個人としては10年ほど温めていたものではありました。そこから大きなきっかけとなったのが、教育機会確保法の施行と、私自身が文部科学省の有識者会議(不登校に関する調査研究協力者会議)に委員として参加したことにあります。

 これらの議論の中で、「学びの機会の多様さ」という文言は出てくるものの、結局は「いかにして学校を補完する場所をつくるか」という発想に後戻りしてしまう印象がありました。積極的に多様な居場所を選んでいこうという価値観に乏しく、私としては既存の学校と並び得る選択肢がもっと増えていくものだと期待していたんです。ところが、実際はそうした動きにはならなかった。

 本校は数年前から、志願者の急増により、多くの子どもたちを受け入れ切れなくなる状況になってしまっています。すると、居場所を確保できなかった子どもたちはどうなってしまうのか。確保法やその他多くの支援は義務教育段階を対象としています。高校生は義務教育ではないというのは国の詭弁であり、ほぼ 1 0 0%に近い子どもたちが当たり前に高校進学する中で、この年代になると途端に支援が打ち切られてしまう。ですから、私たちが止まり木となり、次のステージへ行くための居場所をつくっていく必要性があったのです。

 一方で、フリースクールと言っても、小・中学生の居場所は既存の団体がすでにたくさん実施されている。私たちがそこに踏み込むのは、一歩間違えば地域支援のパワーバランスを崩してしまいかねないリスクもあります。既存のフリースクール等へのリスペクトがある中で、多くの団体がカバーしきれていない隙間、つまり中学卒業者を私たちが担わせて

いただこうと。

 ただ、先ほど述べたような本校としての背景があるものの、目的意識としては「立花に入学できなかった子たちを支援しよう」というものとは少しニュアンスが違うんです。あくまでそうした子どもたちの存在を通して、居場所の大切さを実現させたということ。不合格になった子たちを補完するための機能が目的ではないということですね。

 

 

アドバンテージがある取組ではない

子どもたちが求めるものを後押し

 

 私も前例を探しましたが、全日制高校がフリースクールを開所するという事例は見当たらず、全国では初めての取り組みかもしれません。当然、全日制の強みを活かした活動方針を示すこともできましたが、本来の目的は、利用する子どもたちのニーズに合わせた居場所を確保することに尽きます。

 言ってしまうと、アドバンテージがある取り組みではないんですね。つまり、全日制高校が運営するからといって、高校としての出席が認められたり、単位修得に直結するような取り組みではない。

 そのぶん、メッセージとして発しているのは、単純に学びの機会を確保してあげようというものです。必ずしも高校卒業資格と一致させるものではありませんし、私自身も、本来、高校は無理をして行くべき場所ではないと思っています。もちろん、利用する子どもたちの描く先に進学があったり、例えば高卒認定試験の挑戦があれば後押しはしていきたい。しかし、この場所は高卒資格や高校教育の補完を目的としたものではなく、来て「楽しい」や「人と交流できる」など、居場所としての本来の役割を担いたかったんです。

 もちろん、1 0年の構想の中で、どこかのスクールと提携することや通信制高校のサポート校をやるといった考えもついて回りました。しかし、今回の目的とタイミングに照らせば、そうした要素は一切必要性を感じなかった。

 定員を8名で始めていますが、「居場所のない」高校生年代の子たちは潜在的にはたくさん存在します。ただ、先ほど述べたようにアドバンテージが少ない居場所ですから、高卒資格や積極的な学習支援というニーズには合致しません。そうした意味で「フリースクールたちばな」に対するにニーズはさほど多くはないと想定できます。しかし、ここを必要とする子どもにとっての重要度はより高いものであると思うのです。

 ニーズが高まれば場所や人数を増やしていくことも考えられますが、現状この8名という規模が居心地としては良いんですね。難しいところではありますが、私たちができる範囲の中でやっていきたいと考えています。

 

 

もはや受け皿ではない

通信制高校の存在がより重要に

 

 立花高校は、今年度入試で定員 1 5 0名に対し専願だけで 2 0 6名が志願しました。本校の特徴からして、合否判定の基準が非常に難しいんです。現在は学科試験と面接試験の比率を 5 0%ずつにしていますが、面接試験はどうしても先生方の主観が入ってしまいますから、みんな入学させたいと思ってしまう。ですから、面接担当の先生方は本当に泣きながらやっています。

 現実的には面接で差が出ず、学科試験の結果で合否が決定してしまうことになる。すると、ある程度学力のある子は他の居場所でもやっていけるのでは、という複雑な状況も生まれてしまうんですね。そのため、一時は点数の低い生徒から合格させようとも考えましたが、それをしてしまうと、今度はわざと点数を取らない子たちが出てきてしまう。

 では本校が 2校目、3校目をつくれば良いかというと、現実的に私たちは今の運営で精いっぱいなんですね。長年培ってきた理念や空気感を共にできる人材を育てることにも時間を要しますし、すぐにできることではないんです。

 最近、特に私が心を動かされたのは、不合格を出した学校に直接謝罪に回った時でした。クレームを言われる学校もありましたが、ある学校の先生からは「ずっと足が止まっていた子が、立花に行きたいと言って、制服を着て入試を受けた。それだけでも感謝しています」と言われました。私は駐車場で涙が止まらなかった。そこで、もう待ったなしだと、教頭に電話をかけて「フリースクールをやろう」と伝えたんです。

 そうした意味でも、やはりまだまだ選択肢が少ないのだなと実感しました。ですから、本校のような学校が増えるというよりも、既存の通信制高校の存在がもっと市民権を得るべきだと思います。

 私はもはや通信制高校の役割は受け皿ではないと思っています。私が感じているのは「セーフティーネット」ではなくて「コンフォートゾーン(=安心できる空間)」としての役割。全日制高校と同じ選択肢として選択されていくべきだと思っています。

 

 

Profile

齋藤眞人(さいとう まさと)

宮崎県生まれ。大学卒業後、宮崎県の公立中学校音楽教員を経て、2004年に立花高校に教頭として赴任。2006年から校長を務める。福岡県私学協会副会長。文部科学省「不登校に関する調査研究協力者会議」委員。著書に「『いいんだよ』は魔法の言葉-君は君のままでいい-」(梓書院)など。

 

 

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