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フリースクールは本当に「雪崩」を起こすのか
2023年10月21日
(文:学びリンク 小林)
滋賀県東近江市の小椋正清市長による不登校の子どもや保護者、フリースクールに対する発言が波紋を呼んでいます。
これは10月17日に開かれた不登校対策に関する滋賀県内の首長協議で出されたもので、主な発言内容としては、
「フリースクールは国家の根幹を崩しかねない」
「(財政支援について)フリースクールに行きたいという雪崩現象が起こる」
「不登校になる大半の責任は親にある」
といったものでした。
小椋市長の発言は各方面から批判を受けていますが、実態が見えないことで、同じような考えを抱いてしまう人は少なからずいるものと思われます。市長は後日のインタビューで「ボーダーラインにいる子がフリースクールで楽しんでいる子どもを見たら、雪崩現象を起こすかもしれない」と発言の真意を話していますが、「フリースクールは楽しいところだから、それを見たらみんな行きたがる」と考える人はこれまでも一定数いたと思われます。
では、国がフリースクールを認めたら、本当に「雪崩現象」は起こるのでしょうか?
NPO法人フリースクール全国ネットワークが昨年実施した「フリースクール全国調査」が今年まとめられました。同調査は20年前にも実施されており、今回の調査では20年前との比較・分析も行われました。
この調査で注目したい点の一つは、フリースクールを利用する子どもたちが「並行して行っているところ」について聞いた質問です。選択項目の一つに「小中学校の教室」(つまり学校)という項目があり、フリースクールを利用しながら学校にも通っている子どもは、今回の調査で20.8%いることがわかりました。実はこの数は20年前から15.1ポイント増えているのです。
「雪崩現象」は、まだフリースクールに行っていない不登校の子どもたちを想定しているものと思われますが、反対に、現在フリースクールを利用している子どもたちの視点からすると、実は「学校にも行きたい」と考える子どもが一定数存在し、さらにその数は増えてきているということが明らかになっています。
そして、もう一つの視点は、果たしてフリースクールは「自分の希望がかなう完璧な場所なのか?」ということです。この調査では子どもたちのフリースクールへの本音も細かく聞いています。
「フリースクールに入ってよかったか」という質問では、88.9%の子どもが「よかった」と回答しており、「まあよかった」を合わせると96.3%がフリースクールを肯定的に受け止めています。ただ、まったく不安がないわけではありません。
子どもたち自身に「現在悩んでいること」を聞いたところ、「悩んでいる」と回答した項目で上位にあがったのは「将来のこと」(44.2%)、「進学のこと」(41.0%)、「学力について」(40.3%)で、いずれも「悩んでいない」の回答を上回っています。もちろん、これは学校に通っている子どもも同様の不安を感じていると言えますが、少なくともフリースクールに通ったからといって、子どもたちの不安がすべて消えるわけではないことがわかります。
ただ、多くのフリースクールでは、こうした子どもたちの悩みや心の揺れ動きを否定しないのが特徴的です。「学校に行くべきか・行かないべきか」という疑問は、フリースクールに通う子どもたち自身も抱えている迷いであり、フリースクールはその気持ちをも受け止めて、結果的に学校に戻ることも否定しません。つまり、十分な休養をとり、気持ちを安定させて、また学校に行くというプロセスは、フリースクールに通っている子どもたちにも十分に考えられることなのです。
ただ、「絶対に学校に行くべきだ」という価値観が、子どもたちやその家族を苦しめている側面はあります。「行政に要望すること」を子ども・保護者に聞いたところ、ともに最も多かった回答は「学校に行くのを当然と考えないでほしい」というものでした。
興味深いのは、保護者のほうが子どもよりも24ポイント多く回答している点です。子どもが不登校になった時、最初から「無理に行かなくていいよ」と言える保護者はそう多くはないと思われます。多くの保護者は「学校へ行ってほしい」という何らかのアクションを起こし、上手くいかず、様々な葛藤を経て、いまの状態にたどりついていると思われます。そうしたプロセスを経た保護者だからこそ、子どもたちよりも「学校に行くのを当然と考えないでほしい」と思っているのかもしれません。
保護者は保護者なりに、様々な責任や葛藤を感じながら、子どもと向き合い続けていることを理解する必要があると思われます。
(資料)
「フリースクール全国調査2022」
NPO法人フリースクール全国ネットワーク